第一次川中島合戦を「やや制した」武田信玄〜川の流通路の要衝川中島の重要性・海がない甲斐と信濃・守護武田家と守護代長尾家の格の違い〜｜武田信玄13・戦術・軍事能力・エピソード

前回は「「信濃二大聖地」の一つ善光寺制圧を目指した武田信玄〜川中島の戦いの上杉謙信の理由・信濃全土制圧と武田の戦略〜」の話でした。

川の流通路の要衝・川中島の重要性：海がない甲斐と信濃

甲斐・信濃地方において、極めて重要な土地であった川中島。

比較的大きな川であった千曲川が流れ込む川中島は、流通の中心地でもありました。

島国・日本において、「海と全く面さない国」は非常に少ないです。

それは、現代も同様であり現代「海と全く面さない都道府県」も意外と少ないです。

戦国当時、「海と全く面さない国」は甲斐・信濃・美濃・山城・上野・下野など少数でした。

「海に全く面さない」ということは「海上交通が全くない」ことになります。

飛行機や自動車がなかった当時は、「海上交通のメリット」は巨大でした。

中でも、「海と全く面さない国」甲斐を出発して、さらに「海と全く面さない国」信濃に侵攻した晴信。

「稀有の戦略家」であったと当時に「稀有の内政家」であった信玄。

流通経済の重要性を極めて重視していました。

心底張り切って、晴信は川中島へ出撃しました。

第一次川中島合戦を「やや制した」武田信玄

思い切って川中島へ侵攻した武田晴信（信玄）。

対して、若き長尾景虎（上杉謙信）は奮って「防戦」に挑みました。

若き長尾景虎は、晴信に対抗するために川中島へ出撃しました。

川中島第N次の戦い	年
1	1553
2	1555
3	1557
4	1561
5	1564

最初に激突した1553年は、まだ二人とも若手でした。

名前	生年
毛利元就	1497年
北条氏康	1515年
今川義元	1519年
武田信玄	1521年
長尾景虎（上杉謙信）	1530年
織田信長	1534年

景虎も晴信も、まだまだ若手にして、大軍を率いて川中島に乗り込みました。

老練な武田晴信の戦略に対して、長尾景虎は機動力を駆使して暴れ回ります。

若さ故の長尾景虎のパワーに、武田家は翻弄されてしまいます。

飛石伝いに各地を強襲する長尾家でしたが、具体的戦果を上げることは難しい状況でした。

そして、大きな戦果を得ることなく、長尾家は越後へ退却しました。

その間に晴信は着実に勢力圏を広げてゆきました。

この武田家と長尾家の最初の川中島の戦いの結果は、武田家に軍配が上がりました。

守護・武田家と守護代・長尾家の格の違い

第一次川中島合戦で、長尾景虎（上杉謙信）が武田晴信（信玄）に「やや敗北」した理由。

それは、「長尾景虎が武田晴信よりも劣っていた」のが理由ではありませんでした。

長く武田の家の内部分裂があり、晴信の父・信虎の時代に正式に甲斐国主となった武田本家。

しかし、なんといっても「そもそも甲斐守護」の武田家。

対する長尾家は、関東管領上杉家の有力被官でしたが、代々越後守護代です。

守護と守護代では、大きな家格の違いがありました。

そもそも、守護代は「守護の代わり」に過ぎない立場でした。

「守護の代わり」として地元で勢力を持つ傾向があった守護代。

官位を与える側の「中央の格式」からすれば、守護と守護代では「全然違う」存在でした。

ここが、長尾景虎の率いる長尾家の問題でした。

実は、家格の意味では織田信長の織田家はさらに下がります。

信長の織田家は、「尾張守護代」の織田家の「三家老の一つ」に過ぎなかったのです。

まだ若い景虎は、家中制御に手間取ります。

そもそも守護代に過ぎない長尾家に対して、他の国人たちは従う姿勢をあまり見せなかったのです。

つまり、長尾軍は意思統一が脆弱な軍隊でありました。

それは、景虎の天才的軍事能力をもってしても統制が難しかったのです。

まだまだ「若い」というより「若造」であった長尾景虎。

家柄が守護であり、地盤が強固であった武田家より長尾は「見劣りした」のが実情でした。

1553年の第一次川中島合戦の後、若き信玄はこう思ったでしょう。

ところが、「越後の虎」は意外に強力でのちに「軍神」と呼ばれる存在でした。

次回は上記リンクです。