戦闘型城郭の松本城〜初代松本城主石川数正の肖像・徳川家康の超重臣+兄的存在・関東=徳川家に近い位置〜｜信濃・松本城3

前回は「松本城を信濃拠点とした武田信玄〜信濃中心地の深志城・「歴史の風格」を感じさせる太鼓門・樹齢140年の赤松の梁〜」の話でした。

初代松本城主・石川数正の肖像：徳川家康の超重臣+兄的存在

かつて深志城と呼ばれた松本城は、石川数正が入城した際に名称が代わりました。

石川数正は、徳川家康（松平元康）が幼少の頃から、松平家に仕えていた「家康の懐刀」でした。

外交能力や政治力に長けた数正は、家康をずっと支え続けた存在でした。

名前	生年
徳川 家康(松平 元康)	1543年
酒井 忠次	1527年
石川 数正	1533年

家康が松平元康という名前で、今川家に人質同然の扱いで駿河にいた頃から、

ずっと、近侍として一生懸命家康に仕えた忠次と数正。

家康の16歳も上だった忠次は、文字通り「松平（徳川）家の家老」でした。

譜代の重臣であった数正もまた、忠次と同様に重きをなしましたが、

10歳年上の数正に対しては、家康は、ずっと兄のように頼っていたのでしょう。

もともと、西三河に強い影響力を保持していた石川家は、徳川家の根幹であり続けました。

ところが、本能寺の変の後、小牧・長久手の戦いで徳川家が豊臣家と戦った後、

徳川家の超重臣であり、家康の兄的存在であった数正は、突然、徳川家を出奔しました。

おそらく、家康は、当時「驚愕を超えて、驚天動地の思い」だったでしょう。

「裏切りや謀反が日常茶飯事」だった戦国の世とは言え、

徳川家にとって、「別格中の別格」の存在だった数正が「敵である豊臣（羽柴）」に移ったことは、

徳川家の機密事項が全て秀吉の手に渡り、「徳川家は丸裸になった」も同然でした。

1585年のことで、以後、石川数正は石川吉輝（吉は秀吉の偏諱）と名乗り、

この後、秀吉が北条家を下し、徳川家が「関東に移封させられた」後に、

松本城10万石城主となったのが、石川数正（吉輝）でした。

戦闘型城郭の松本城：関東=徳川家に近い位置

その後、豊臣の時代は長くは続かず、徳川の時代となりました。

もし、石川数正が家康を裏切らず、ずっと「徳川家の超重臣」であり続けていたら。

おそらく、徳川幕府で「最も大老を輩出した」のは、石川家だったでしょう。

家名	人数（名）
井伊	6
酒井	3
土井	1
堀田	1

徳川家で、最も重きをなした「石川+酒井」の内、酒井家は大老を3名出しました。

1593年に亡くなるまで、松本城主であり続けた石川数正（吉輝）。

その後は、小笠原家が城主となり、最後は戸田家が城主となって幕末を迎えました。

松本城は知名度が抜群で、松本駅から近いこともあり、かなりの人気です。

予約しましたが、30分ほど待つことになり、その間は松本城の外観を楽しみました。

主たる五層の天守閣には、「隠れた一層（階）」があり、「実は五層」です。

石垣は重厚な作りで、松本城を築城した石川数正の築城術は、かなり高いレベルでした。

多数の鉄砲狭間、矢狭間が備えられた松本城は「戦のための城」であることを物語っています。

関東移封前の、徳川家は、駿河・遠江・三河・甲斐・信濃を領土としていました。

このうち、駿河・遠江・三河は、「信長時代に徳川家の領土」でしたが、

信長が横死する直前、甲斐・信濃は織田家の領土であった事実に対して、秀吉は、

秀吉は「家康への嫌がらせ」も考えて、石川数正に松本城を与えたのでしょう。

そして、松本城を拝領した石川数正は、関東に移った徳川家と「比較的近い位置」になりました。

おそらく、秀吉との外交交渉を「徳川家代表」として行っていた数正（吉輝）は、

三河や遠江とは全然違う、「大坂の雰囲気」に圧倒された数正（吉輝）。

おそらく、「近畿周辺で領土を得たい」と思っていたでしょう。

そして、古巣である徳川家に近い、ということは、将来「攻撃される懸念」がありました。

この石川数正の思いから、松本城は「長期籠城が可能な、戦闘型城郭」となりました。