前回は「幕末維新の長老格だった勝海舟〜「高利貸し旗本」の勝家・老中阿部正弘による抜擢・オランダ語の学びと優れた意見書〜」の話でした。

「下っ端旗本」だった勝麟太郎:旗本と御家人のランク

1823年に、小身旗本の家柄に生まれた勝麟太郎(海舟)。

ま、俺は
大した家柄ではないが・・・



小さな頃から
一生懸命勉強して、頭には自信がある!
この頃、徳川幕府の治世で安定し続けていたら、「勝の出番」はなかったでしょう。


幕臣ながら「かなり低い身分」であった勝麟太郎。
勝の幕臣としての格・ランクは、後の天敵・小栗忠順らとは、比較の対象になりませんでした。



我が小栗家は
2,000石の名門旗本だ!
例えば、名門旗本の小栗忠順は2,000石であり、かなり格式が高い方でした。



我が勝家は、
石高は低いが・・・



歴とした、
直参なのだ!
江戸時代の幕臣には、格式や「将軍への御目見」の資格の有無などで旗本・御家人の区別がありました。


「強烈な差別があった」土佐藩においては、武士階級で「上士と下士の区別」が明確でした。
この「上士と下士」と類似した感じで、幕臣も「上士=旗本、下士=御家人」でした。
いずれにしても、「旗本の下っ端」であった勝は、「一定以上の格の幕臣」であり、



徳川家のために
尽くす所存だ!
若い頃から、他の幕臣同様に「徳川幕府ファースト」であったでしょう。
世が安定していたら、勝は「それなりに徳川幕府に役立った」程度で、歴史に名を残さなかったでしょう。





Hello!
Japanの皆さん!



我がUnited Statesと
条約を締結しましょう!
ところが、その「安定した徳川の治世」は米国のペリーによって、木っ端微塵に粉砕されてしまいました。



なんとしても、
我がUnited Statesと条約を結んでもらいたい!



条約締結しないなら、
Edoを砲撃しますよ!
勝海舟の凄みの背景「蘭学の学び」:ヅーフハルマ二冊筆写の根性


時の老中・阿部正弘は、優れた人物で実直かつ誠実な人柄でした。



オランダから、メリケンの使節が
来るとは聞いていたが・・・
実は、「ペリー来航」は突然のことではなく、オランダ通詞などを通して、幕府は知っていました。



来るのは分かっていたが、
メリケンとの条約か・・・
ここで、意見書を募った阿部正弘に対して、「オランダ語」を必死に学んだ勝は、



私は、メリケンなどに対して、
このように考えます!
当時、「外国と言えばオランダ語」日本において、「オランダ語が分かる」人物は貴重でした。



小身旗本ながら、
優れた勝は、幕府に役立ってもらう!
その勝ならではの意見書は、老中・阿部正弘の目に留まり、勝は抜擢を受けました。
1823年生まれの勝麟太郎が、30歳になる頃に、



最近、勝という幕臣が
阿部様に目をかけられているらしい・・・
勝の名前が少しずつ、徳川幕府の中で認識され始めてきました。



我が蘭語の能力を
活かして、対外政策に腕を振るおう!
後年、「異様な政治力」を発揮した勝ですが、その力の根源は「蘭語の能力」でした。
若い頃の、勝麟太郎には有名な逸話があります。



蘭語を、もっともっと
勉強したい・・・



蘭語の辞書が
欲しいが、我が家は貧しい・・・





特に、あの
蘭和辞典ヅーフ・ハルマが欲しい・・・
現代とは異なり、辞書は極めて貴重でした。
印刷技術が一般的でなかった当時、蘭和辞典ヅーフ・ハルマは「写本のみ」でした。
約50,000語を収録し、全58巻あったヅーフ・ハルマ。
一説には、「33部ほどしかなかった」という話もあるほど「超貴重な本」でした。



誰か、ヅーフ・ハルマを
貸してくれないか・・・
ここで、「下っ端」とは言え、一応は幕臣であった勝は幸運でした。



勝様、私が所有する
ヅーフ・ハルマをお貸ししましょう・・・



お代(費用)は、ほどほどで
良いですよ・・・



なんと言っても、
勝様は幕臣ですから・・・
「幕臣」の格は、当時極めて高かったことが、勝に幸いしました。



有難い!
貸していただき、筆写します!
そして、自分の勉学のために、ヅーフ・ハルマを全て筆写した勝麟太郎。
流石に「全58巻全て筆写」とは思えませんが、少なくとも「ある程度を筆写した」勝。
現代で考えると、「辞書を筆写」は凄まじい根性でした。
本来ならば、「自分の分だけ」筆者して写本を手に入れれば「事足りる」はずでしたが、



ええい!
もう一冊写本を作るぞ!



そして、その写本を
売って、生活費の足しにする!
生活費のためにも、辞書を二冊筆写した勝。



やっと、二冊を
筆写し終えた・・・
そして、勝は借りた方の元にヅーフ・ハルマを返却に向かいました。



お借りしたヅーフ・ハルマを、
お返し致す。



上手く
筆写できましたか?



実は、二冊筆写させて
頂きました・・・



なんと、
一冊でも大変なのに、二冊も?



この勝という幕臣は、
能力と根性にかけては、ピカイチだ・・・
ヅーフ・ハルマを勝に貸した町人は、大いに驚きました。



お借りしたお代は、
こちらで・・・



いえ・・・あなたのように
勉学に励む方に読んで頂き・・・



ヅーフ・ハルマも
本望でしょう・・・



お代は不要ですから、
取っておいてください・・・



いや、それは・・・
かたじけない・・・
こうして、ヅーフ・ハルマの写本とある程度のお金を手にした勝は、ますます猛勉強しました。
勝の立身出世のきっかけとなった「蘭学の学び」。
この「蘭学の学び」から得たものは、後年の勝の「異様な政治力」の根源にもなりました。