前回は「山本五十六の実像〜抜群の知名度「東條か山本か」・連合艦隊司令長官の「狭く弱い権限」・聖将・智将・凡将・愚将の評価・真珠湾奇襲攻撃・ミッドウェイ海戦〜」の話でした。
陸軍軍人よりも人気が高い海軍軍人:「悪役」東條英機のイメージ
数多くの日本(大日本帝国)海軍の将校・提督の中でも、人気抜群の山口多聞。
そもそも、第二次世界大戦においては、陸軍軍人よりも海軍軍人の方が人気が高いです。
それは、第二次世界大戦の日本の顔が陸軍の東條英機であることが最も大きな理由です。
世界から「巨悪の東條」と評価されている東條英機。
いわば、日本の国内外で「典型的悪役」にされているのが東條英機です。
歴史好きの方ならば、第二次世界大戦の軍人は多数知っていますが、一般的には、
第二次世界大戦の頃の
日本人って・・・
東條英機と山本五十六しか
知らないけど・・・
日本の小学校〜高校の教科書や参考書でも、大抵は「東條英機と山本五十六のみ」登場します。
戦国時代ならば、教科書などでも信長・秀吉・家康以外に信玄・謙信など登場します。
ところが、第二次世界大戦に関しては、義務教育では「ほとんど触れられない」のが実情です。
それは、「敗戦の負い目」や「侵略戦争への負い目」もあるのでしょう。
辻政信のようなエキセントリックな人物が多い陸軍軍人と比較して、比較的「穏当」な海軍軍人。
第二次世界大戦の海軍軍人では山本五十六以外で山口多聞、大西瀧治郎、小沢治三郎あたりが人気です。
今回は、闘将であり「哀しみを背負った」イメージが強い山口多聞を考えます。
極めて人気が高い闘将・山口多聞の実像:ミッドウェイ海戦
この山口多聞の異常な人気の高さの根源は、ミッドウェイ海戦です。
とにかく、航空隊を
早く発艦させるのだ!
早く、米空母を
撃滅するのだ!
現代「圧倒的世界最強」の米軍に対して、海軍だけならば「当時は米軍と伍していた」日本海軍。
山口多聞は、第一航空艦隊の第二戦隊司令官として戦いに挑みました。
当時は、日本海軍は圧倒的な軍事力で太平洋を暴れ回っていました。
海軍随一の知米派であった山本連合艦隊司令長官は、日米戦争勃発前に、
米国には
絶対に勝てん!
米国に勝てると思っている者は、
米国を実際に見てこい!
テキサスの油田と
デトロイトの自動車工場を見れば分かる!
そもそも、第二次世界大戦時の日本の国力は米国の国力の1/10以下でした。
さらに、「原油が全然出ない」日本と「原油が唸るほど出る」米国。
これでは「戦いにならない」のであり、「日米戦は戦う前から結果が分かっていた」のが実情でした。
米国に勝つ可能性を求めるならば、
選択肢はただ一つ・・・
それは緒戦での
思い切った大奇襲しかない!
そして、真珠湾奇襲攻撃という「大奇襲攻撃」を強行したのが、山本長官でした。
山口多聞と真田信繁(幸村)への類似した切ない共感
真珠湾奇襲攻撃は「米空母不在」であり、「米空母撃滅」は空振りしました。
いわば、山本長官の渾身の「大奇襲」の戦果は「想定の半分以下」であったと言っても良いでしょう。
この時、「石油タンク攻撃」を思い切り主張したのが、山口司令官と言われています。
とにかく、石油タンクと
工廠を叩いておくのだ!
ところが、南雲長官・草鹿参謀長の「戦略的甘さ」から、石油タンク・工廠を攻撃しませんでした。
もし、山口多聞が、
空母機動部隊の長官だったら・・・
という声が、当時から上がっています。
挙げ句の果てに、外務省の失態から「奇襲攻撃」ではなく「騙し討ち」になった真珠湾。
そして、主に米国・英国を相手にして戦い、緒戦は連戦連勝だった日本海軍。
そして、ミッドウェイ海戦を迎えました。
なぜ、なぜ、米空母と
ミッドウェイ島の二つを同時に叩くのだ?
もともと「二兎を追い求める」作戦でだった無謀極まりない作戦だった「ミッドウェイ」。
さらに、雷撃機を爆装転換してさらに「元に戻す」信じ難い愚策を強行した赤城司令部。
もし、山口多聞が、
空母機動部隊の長官だったら・・・
という声が再び上がり続ける中、
飛龍だけでも、なんとか
米海軍に一矢報いたか・・・
責任をとって、
飛龍と共に沈もう・・・
大惨敗し、自沈が決定した飛龍と共に海に沈んだ山口多聞。
大坂の陣で、徳川家康を切腹寸前まで追い詰めたものの、敗北・戦死した真田信繁(幸村)。
もう少し、もう少しで、
宿敵・家康の首を取れたのだが・・・
実に無念、
無念だ・・・
もし、真田信繁(幸村)が、
豊臣家・大坂方の采配を執っていたら・・・
と惜しまれ続け、絶大な人気があります。
真田信繁(幸村)と類似した「日本人が共感したくなる」悲劇の提督・山口多聞。
いわば、日本人らしい「切ない共感」が強く感じられるのが、この二人です。
次回からは、山口の若き日々や本当の能力などを考えてゆきます。