前回は「適塾後輩・福澤諭吉の挑発的発言〜緒方洪庵の通夜と下関戦争と攘夷・「そうせい公」と躍動した若手長州藩士たち・「おもちゃ」の長州砲台〜」の話でした。

蘭学者から見て「発狂馬鹿集団」長州藩:下関戦争と異次元「武器のレベル」

攘夷の嵐が吹き荒れた幕末、最も「攘夷熱」にうなされていた長州藩。
幕府が正式に「攘夷OK」の通達を出すと、「いの一番に攘夷決行」したのは、もちろん長州藩でした。
ところが、英仏蘭米四カ国の連合軍に逆襲され、あっという間に敗北してしまいました。
村田蔵六我が長州藩が
大敗北か・・・
蔵六が手塩にかけて、一生懸命に長州藩士を教育し、軍事力を強化した長州軍。



根幹となる、武器が
あまりに幼稚すぎるのだ・・・
数学・物理的思考の傾向が強い村田。
村田は、このように「西洋と日本の武器のレベルの違い」を痛感したでしょう。
この頃の日本と西洋の武器のレベルは、「全然違う」というよりも「異次元」でした。


ちょうどこの頃、村田にとって恩師である緒方洪庵が急死してしまいました。


通夜の席で、村田の十歳下の福澤諭吉がツカツカと村田に寄ってきました。
| 名前 | 生年 |
| 緒方洪庵 | 1810 |
| 大村益次郎(村田蔵六) | 1825 |
| 大鳥圭介 | 1833 |
| 福澤諭吉 | 1835 |



どうダエ、
下関では大変なことをやったじゃないか。



何をするのか、
呆れ返った話じゃないか。
そして、突然村田に対して、こう言い放った福澤。
緒方洪庵による適塾(正式名称:適々斎塾)は、医学も学べましたが、事実上「蘭学養成所」でした。
医師であった緒方洪庵に師叔する若者が集まり、大いに蘭学と蘭書を学んだ適塾門下生たち。
その適塾門下生にとっては、「蘭学こそ最高」であり、「攘夷など論外」でした。


徳川幕府の国是によって、西洋とはオランダとのみ、正式には「細くつながっていた」当時の日本。
「西洋の学問」と言えば、蘭書でしたが、この頃は、既に英書が少しずつ入り始めていたと考えます。
そして、依によって「最高の蘭学」の発祥の地である、オランダまで敵に回した長州藩。
福澤ら適塾門下生にとって、長州藩は「発狂馬鹿集団」以外の何者でもありませんでした。
村田蔵六「オランダの奴がなんだ!」:大驚愕+反論不能の福澤諭吉


この時の村田と福澤のやりとりは、福澤諭吉自身の回顧録「福翁自伝」に記載されています。



オイ、村田君、
君は何時長州から帰ってきたか。



この間
帰った。
このような会話が、最初に交わされた村田と福澤。
そして、続いて先ほどの「どうダエ」に続きます。
おそらく福澤としては、



確かに
英仏蘭米と戦ったのは間違いだ・・・
このように、普通の蘭学者と同じような回答を言うか、



まあ、あれは
良くないことだな・・・
あるいは、無骨で大人しい村田ゆえ、このように短く答えるか、の回答を想定したと考えます。



攘夷など
笑止千万!



さあ、私の先輩である
村田さんは、どう答える?



・・・・・



村田が、眼に角を
立て、



何だと、
やったらどうだ!!
突然激昂した村田に対して、福澤は呆気に取られながらも、



どうだって、
この世の中に攘夷なんて、



まるで気狂いの
沙汰じゃないか!



気狂いとは
なんだっ!!



けしからんことを
言うな!



長州ではチャント国是が
決まっている。



あんな奴原に我が儘を
されて堪るものか!



殊にオランダの奴が
なんだっ!
立て続けに、こう言い放った村田。



!!!!!
これには、幼い頃から口が立った福澤もおそらく、びっくり仰天だったでしょう。
適塾門下生にとって、ずっとずっと「蘭学こそ最高の学問」でした。
そして、蘭学発祥の地・オランダもまた、ある意味で「憧れの地」だったのでした。
その「憧れの国・オランダ」に対して、「蘭学の権化」村田が「あんな奴原」と言い放ったのでした。



小さい癖に横風な
面している。



これを打ち攘う(うちはらう)のは
当然(アタリマエ)だ!



モウ防長の士民は悉く死に尽くしても
許しはせぬっ!



どこまでも
やるのだ!



と言う、その剣幕は
以前の村田ではない。



実に思い掛けも
ないことで、



これは変なことだ、
妙なことだ・・・



と思うたから、私は
良い加減に話を結んで、



それから、箕作のところに
来て、



大変だ、大変だ、
村田の剣幕は、〜〜の話だ。
「口の達者レベル」では、当時の日本随一レベルだった福澤諭吉。
その福澤諭吉は、村田の猛烈な剣幕に押されてしまい、なんの反論も出来ずに引き下がりました。
おそらく、周囲の適塾門下生たちも「凍った」であろう村田の言動。
「大蘭学者・村田蔵六」は、完全な長州藩士に戻り、「以前の村田」ではなくなっていました。



福澤の
バカめが・・・



まあ、福澤がなんと言おうが
どうでも良いが・・・
そして、吐き出すように、珍しく多くの言葉を連発して喋った村田。
その瞳の先には、軍事力を強化した新生・長州軍の姿が見えていたのでした。

