映画「連合艦隊」3〜宇垣纏と草鹿龍之介・レイテ沖海戦・陸海軍の特攻作戦・宇垣と草鹿の最後の対面・戦艦大和撃沈と宇垣長官特攻〜|太平洋戦争

前回は「映画「連合艦隊」2〜水雷部隊の名手南雲忠一と機動部隊生みの親小沢治三郎・ミッドウェー海戦からレイテ沖海戦へ・神風特別攻撃隊に対する小沢の立場〜」の話でした。

目次

宇垣纏と草鹿龍之介

左上から時計回りに、宇垣纏 連合艦隊参謀長、草鹿龍之介 第一航空艦隊参謀長、黒島亀人 連合艦隊首席参謀、山本五十六 連合艦隊司令長官(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本 新人物往来社、Wikipedia)

今回は、映画「連合艦隊」における宇垣纏と草鹿龍之介をご紹介します。

まずは宇垣纏です。

太平洋戦争開戦時に連合艦隊参謀長として登場し、山本五十六を補佐した宇垣。

実際には山本は宇垣とは方向性が合わず、首席参謀の黒島亀人を重用していました。

バリバリの「大艦巨砲主義」の権化のような存在だった宇垣。

宇垣纏

海戦は、
戦艦で決まる!

対して、早い時期から海軍航空隊に未来を見出し、海軍航空本部長・海軍次官の頃から、

山本五十六

これからは、
空母・航空隊だ!

山本五十六

戦艦は
無用の長物となる!

という考えであった山本長官。

宇垣参謀長と山本長官では、考えが全く合わなかったのでした。

この映画では、宇垣が作戦指示の要として描かれています。

山本五十六 連合艦隊司令長官(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本 新人物往来社)

大艦巨砲主義の権化のような宇垣、対する草鹿龍之介は「航空戦主戦者」でした。

そして、この映画では「宇垣と草鹿」の二人が非常に対照的に描かれています。

南雲忠一 第一航空艦隊司令長官(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本 新人物往来社)

映画で初めて二人が登場する時、

南雲忠一

うるさいの(宇垣)が
参謀長になったし・・・

こう言った南雲長官に対して、草鹿参謀長が颯爽と登場します。

草鹿龍之介 第一航空艦隊参謀長(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本 新人物往来社)

そして、草鹿は南雲に言います。

草鹿龍之介

ああ、あれ(宇垣)は、
根っからの大砲屋ですからね・・・

草鹿龍之介

飛行機のことなど、
わからないですよ!

最初から、非常に険悪な雰囲気を出しています。

海兵卒業期は、宇垣が40期、草鹿が41期。

たった一つの学年の違いです。

一つ、二つの違いはライバル心が出るのでしょう。

草鹿は南雲機動部隊の参謀長として、南雲忠一第一航空艦隊司令長官を補佐します。

初戦に真珠湾奇襲攻撃を「成功させ」て、太平洋・インド洋を、またにかけて暴れ回った南雲機動部隊。

草鹿龍之介

我らが
最強よ!

順風満帆だった南雲・草鹿は、ミッドウェー海戦で、信じられないような記録的敗北を喫します。

草鹿龍之介

油断
していた・・・

草鹿龍之介

申し訳
御座いません・・・

山本司令長官に懇願して左遷を免れ、最前線に居続けます。

あれほどの「取り返しのつかない」大敗北の責任者・指揮官であった南雲と草鹿。

その彼ら二人が「責任をとらずに、居続ける」ことが信じ難いことです。

これは、当時の陸海軍では、よく見られたことでした。

ミッドウェー海戦後は、日本海軍は米海軍に押され続けます。

レイテ沖海戦:陸海軍の特攻作戦

小沢治三郎 第三艦隊司令長官(別冊歴史読本 戦記シリーズNo.65 「空母機動部隊」新人物往来社)

その後、日本海軍は米海軍に押しまくられ、レイテ沖海戦で日本は緻密な計画を練ります。

大和以下の戦艦部隊をフィリピン・レイテに突入させて、米軍の補給路を断つ作戦です。

この時、フィリピンにいたのは、後にGHQ総司令官となるマッカーサー司令官でした。

Douglas MacArthur陸軍元帥(wikipedia)

小沢長官率いる部隊が、米海軍に臨み、ハルゼーの強力な機動部隊と戦います。

この海戦で、最後の正式空母の瑞鶴が沈められたものの、

小沢治三郎

我、敵を北方に
誘致せり!

ハルゼー機動部隊を北方に誘致する役を果たした小沢長官。

William Halsey第二空母戦隊司令官(Wikipedia)
Halsey

Japanの機動部隊が、
囮だったと?!

第五航空戦隊 空母瑞鶴(Wikipedia)
小沢治三郎

私はハルゼーを
北に吊り上げる役は果たした・・・

戦艦大和(Wikipedia)

ところが、肝心の戦艦大和を率いていた栗田長官。

栗田健男 第二艦隊司令長官(Wikipedia)
栗田健男

米機動部隊が、
こちらに向かっている可能性がある・・・

栗田健男

もうよい・・・
作戦は中止・・・

栗田長官は、作戦を放棄して、北方へ反転しました。

「栗田長官の謎の反転」と呼ばれ、第二次世界大戦の大きな謎の一つです。

この時、戦艦大和で栗田長官と同乗していた、宇垣司令官は、

宇垣纏

何言ってんだ!
我らの使命は、レイテに突入することだ!

栗田長官に猛反駁するも、却下されました。

新歴史紀行
知覧特攻平和会館(新歴史紀行)

そして、事実上、日本海軍は戦闘能力を失いました。

陸海軍とも神風特別攻撃隊の出撃を続けます。

終盤に、宇垣は鹿児島県の鹿屋基地を拠点とする、第五航空艦隊司令長官として登場します。

宇垣纏

特攻隊よ、
出撃せよ!

「大艦巨砲主義の権化」だった宇垣は、山本長官を補佐する間に、

宇垣纏

戦艦よりも、
航空隊・空母だ!

航空主軸の考えを受け入れるに至ります。

ところが、この頃、もはや山本長官はこの世にいませんでした。

同時期、開戦時に宇垣が務めた連合艦隊参謀長は草鹿でした。

敗戦間近の1945年4月に 、「100%撃沈される」ことが分かっている作戦が発令されます。

「戦艦大和を残したまま、負けるわけには行かない」という、とんでもない発想でした。

大和主体のいわば「海上特攻作戦」を、軍令部は決定します。

及川古志郎 軍令部総長(Wikipedia)

草鹿は大和に座乗する第二艦隊の伊藤整一長官を説得に行きます。

草鹿龍之介

伊藤長官が、
作戦に納得するかどうか・・・

伊藤整一 第二艦隊司令長官(菊水一号作戦時)(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本 新人物往来社)

宇垣と草鹿の最後の対面:戦艦大和撃沈と宇垣長官特攻

宇垣纏 第五航空艦隊司令長官(菊水一号作戦時)(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本 新人物往来社)

その前に、草鹿は鹿屋基地の宇垣を訪れ、「海上特攻」作戦の説明をします。

草鹿龍之介

宇垣さんは
大嫌いなんだが・・・

宇垣纏が「心の底から大嫌い」な草鹿龍之介。

草鹿龍之介

戦艦大和の
沖縄への出撃が決定しました・・・

宇垣纏

護衛戦闘機は
どうする!

草鹿龍之介

護衛戦闘機を
出す余力はないでしょう。

宇垣纏

君は、一体何を
言ってんだ!

宇垣纏

むざむざ、
大和を沈没させるとは・・・

戦艦大和(Wikipedia)
宇垣纏

それでも君は、
連合艦隊の参謀長(開戦時は宇垣)か!

宇垣司令長官に叱責された、草鹿参謀長。

宇垣纏

この馬鹿者
めが!

草鹿龍之介

だから、
宇垣さんは嫌いなんだ・・・

こんな二人の思いが交錯する中、

草鹿龍之介

あなたとは、航空戦か戦艦か、
お互いやり合いましたが・・・

草鹿龍之介

もはや・・・そういうことが言える
状況ではないですな・・・

草鹿参謀長は、宇垣司令長官に泣きそうな顔をしながら発言します。

対して、傲岸な態度が多い宇垣司令長官。

宇垣纏

連合艦隊を崩壊に危機に追い込んだ、
責任だけが残った・・・

米海軍の総攻撃を受ける戦艦大和(Wikipedia)

宇垣は司令長官としての独断で、大和出撃時に護衛戦闘機出動を命じます。

宇垣纏

我が戦艦大和を、
「護衛なしで出撃」などさせることはできない!

宇垣纏

独断で
戦闘機を出す!

米軍とは交戦することなく戦闘機は帰還し、戦艦大和は米海軍に袋叩きにあって撃沈されます。

敗戦の日、宇垣纏は自ら特攻機に搭乗し、部下と共に沖縄水域に突入・戦死します。

「司令長官自ら特攻する」という前代未聞の事態でした。

宇垣纏

先に特攻して、
散った若者たちに対するけじめだ!

宇垣纏

「死んでこい!」と
命令したのは、私だ!

宇垣なりの「けじめ」だったのでしょう。

草鹿龍之介

宇垣さんは、
大嫌いだった・・・

草鹿龍之介

しかし、
彼も武人であった・・・

敗戦決定後「指揮権が消滅している」状況の宇垣の特攻。(諸説あり)

この宇垣特攻は「私兵特攻」と言われ、賛否両論です。

ただし、まだ「作戦中止命令が第五航空艦隊には届いていない」状況でした。

自ら特攻機に搭乗し突入する直前に階級章を外す宇垣司令長官(戦藻録 宇垣纏 原書房)

山本・伊藤・小沢・南雲・宇垣・草鹿に、焦点をあてた映画「連合艦隊」。

本来登場しても良いはずの山口多聞司令官等は、映像では一切登場しません。

登場人物を限り、それぞれの役職・役割が入れ替わる人間模様もまた不思議な感慨を呼び起こします。

この映画では、旧日本海軍の大きな流れが分かりますので、おすすめします。

ぜひご覧ください。

連合艦隊(東宝)
新歴史紀行

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