前回は「逆ギレしてしまった井伊直弼〜「御三家の水戸弾圧」によって開かれた扉・安政の大獄の極大弾圧・「真面目の井伊」と「不良の岩倉」〜」の話でした。

「徳川ファースト」の最右翼だった井伊家

徳川四天王の一人、井伊直政を藩祖とする井伊家。
家名 | 人数(名) |
井伊 | 5 |
酒井 | 3 |
土井 | 1 |
堀田 | 1 |
そして、大老を最も輩出した井伊家は、文字通り「徳川家の屋台骨」でした。
徳川幕府にとっては、御三家や会津松平家・福井松平家などの一門は、確かに極めて重要でした。
一方で、幕府の政権運営としては、実務を取り仕切る大老・老中が最重要であり、

我が徳川幕府にとって、
井伊は柱石だ・・・
井伊家は「徳川幕府の柱石」であり「徳川幕府の根幹」でした。



徳川幕府の勢いが
衰えている・・・



ここで、俺が
巻き返して、徳川を再興する!
その井伊家の当主であった井伊直弼は、どこまでも「徳川幕府ファースト」でした。



俺以上に、
「徳川幕府ファースト」の人物はいるか?



いないだろう・・・
いるはずがない・・・


幕末期の優れた旗本たちもまた、ほぼ全員が「徳川幕府ファースト」でした。
彼ら旗本は「幕府の官僚」であったのに対して、35万石の藩主であった井伊直弼は「別格」でした。



この俺が、
徳川幕府を建て直し・・・



諸外国と
うまく付き合ってゆくのだ!



そして、幕府の政治は
この井伊直弼がすべて握る!



邪魔者は、全て
俺の眼中から消えろ!
「安政の大獄」の巨大弾圧によって、恐怖政治を敷いた井伊直弼。
国内の体制を整えて、将軍を上回る実権を握りました。
幕末維新の扉を開いた井伊直弼:歴史的「作用と反作用」法則と桜田門外の変





おのれ!
おのれ、井伊め!



絶対に
許さんぞ!



俺たちが
井伊に天罰をくらわしてくれる!
藩主であった徳川斉昭を「強制隠居」させられ、水戸藩士たちが激昂し、そこに薩摩藩士も加わりました。



井伊を
殺してやる!
そして、井伊直弼を狙う勢力が江戸に集まりました。
「自分が狙われている」ことは、十分承知していた井伊直弼は、



弱い連中が集まって、
何が出来る・・・



こちらは屈強の徳川家直轄の
旗本たちが、俺を常に守っている・・・



どうだ・・・
手出し出来まい・・・
井伊直弼は、自分が「暗殺の対象」となっている事実に対しても、極めて楽観的でした。



くそっ・・・井伊が住む
彦根藩邸は、江戸城のすぐ近く・・・



その短い距離を
屈強の連中が守っている・・・



俺たちも腕に自信が
あるが・・・



護衛の連中との戦いに
時間がかりそうだな・・・
井伊大老の護衛部隊との戦闘中に、井伊大老が逃げてしまっては意味がありません。
また、大老護衛の武士と戦闘中に、他から援軍が来る可能性もあり、暗殺は極めて困難でした。



まあ、まずは井伊の登城の様子を
念入りに観察だ・・・



じっくり観察していれば、
なにか突破口があるかもしれぬ・・・
水戸藩を中心とした「井伊暗殺団」は、「井伊暗殺の突破口」を念入りに調べました。
そして、雨の日に「ある特徴」に気づいた井伊暗殺団。



うん?
護衛の武士が、刀の袋を・・・



大事な刀が
濡れるのが嫌だ、ってことだな・・・



武士の嗜みとしては
正しいが・・・



あれでは、いざ突発事態が
発生しては、即座に対応できまい・・・



うむ・・・
袋に入っていては、抜刀に時間がかかる・・・



どんな達人であっても、
袋から出すには、少し時間がな・・・



ならば、雨の日、できれば
大雨の日を狙えば、井伊をやれるか・・・



うむ・・・
確かに可能性はあるな・・・
ここで、水戸藩士と薩摩藩士は、「雨に濡れない」対処をする旗本たちに対して、



しかし、武士の嗜みとは
言え・・・



護衛している分際で、
刀を袋にいれる、という発想は・・・



まあ、
お坊ちゃんだな・・・
確かに、江戸で育ったエリート武士だった幕臣や旗本は、「坊ちゃん」的な人も多数いたでしょう。



まあ、俺たちとは
生まれも育ちも違うんだろうよ・・・



大雨だったら、雨合羽つけて、
念入りに刀を袋にいれるんだろうよ・・・



そこだな・・・
もし俺たちが護衛する立場だったら・・・



雨の日であろうと、
大雪であろうと・・・



袋に刀なんぞ入れんで、
常に臨戦体制だな・・・



大雨を狙って、
一気に井伊をやるか!
「不可能」に思われた井伊大老暗殺が、にわかに現実味を帯びてきました。



ならば、次の大雨の日に向けて、
準備をしよう!



うむ・・・
大雨も良いが、出来れば雪がいいな・・・



雪ならば、
視界も悪くなり、我らに気づきにくくなる・・・



確かに、雪ならば、
井伊たちの行列に、こっそり近づけるな・・・



よしっ!
決まりだ!



次の雪の日、または
大雨の手頃な日に決行だ!
こうして、井伊暗殺団は、雪、または大雨の日に暗殺決行をすることを決定しました。
そして、連日、空気感などで天気予報をしながら、待ちました。
やがて、



どうも、明日は
雪っぽいな・・・



ああ、この寒さ、
この湿り気・・・



例年、江戸では、こういう日の後は
雪だな・・・



ならば、明日、
集合場所で・・・



うむ・・・
いよいよだな・・・
雪の日の前日に、井伊暗殺団は翌日の結集と決行を胸に、別れました。
そして、翌日は大雪となりました。



ほう、
雪か・・・



しかも、大層な雪で、
雪化粧の江戸城も良かろうな・・・



よしっ、
江戸城へ向かうぞ!



はっ、
ただちに!
そして、井伊大老は60名ほどの人数で、江戸城に向かってゆっくり歩き始めました。



今日は、ずいぶんな
雪だ・・・



我が家の大事な
刀を濡らさぬよう・・・



念入りに袋に入れて、
私は雨合羽を着よう・・・
「念入りに雪対策をした」井伊護衛団を遠くから見ていた、井伊暗殺団。



やつら、かなり
丁寧に刀を袋に入れたぞ・・・



今日は絶好の
チャンスだな!
そして、井伊大老の行列が江戸城桜田門の目の前に着いた頃、



よしっ!
いくぞっ!



井伊を
殺せ!



な、なに奴!?
し、しまった・・・



刀を取り出すのに、
時間が・・・



ぐわっ!



護衛の武士に構わず、
目指すは井伊の首!


桶狭間の合戦の織田信長の如く、井伊暗殺団は、「井伊だけを目指して」突撃しました。



な、
なにっ!



ぐ、
ぐわっ!



大老、井伊直弼を
討ち取ったり!
井伊大老はあっさりと暗殺されて、首を取られてしまいました。
結果的に、この「井伊大老の白昼暗殺」こそが、幕末維新の扉を大きく開きました。
「桜田門外ノ変」は、井伊直弼の「安政の大獄」の「歴史的作用」に対する「歴史的反作用」でした。
井伊は「徳川のため」と思い、「安政の大獄」を実行しました。



・・・・・
ところが、本人が気づかないまま、新たな扉を開けてしまいました。
「徳川幕府が終焉し、新たな時代が始まる」新たな扉を。